トップインタビュー

基盤を生かした
新しいアイデアを

酒類販売を主業とする「町の酒屋」らしい酒屋だったカクヤスは、新しいビジネスモデルを時代の変化にあわせて打ち出したことで成長してきました。失敗を経験しつつも成功を重ね、多様なニーズに応え続けてきた佐藤順一社長に話を聞きました。

倉庫から冷蔵庫の横まで、
発揮される物流網の強み

酒類に対する意識の移り変わりや、飲食店などの時短営業の影響を受けて飲食店様向けの需要が大幅に減少するなど、さまざまな市場の変化を経験されたかと思います。このような変化の激しい状況だからこそ発揮されたカクヤスの強みについて教えてください。

カクヤスがこれまで築いてきた物流網が、より一層の強みとして機能してくれたと考えています。当社は以前から東京都内23区内であれば、注文から最短1時間で商品を1本からでも無料でお届けできる仕組みを維持してきました。このような物流網を持っている会社は他にはなかなかありません。当社が倉庫・店舗の運営から配達まで自社ですべて担うことで実現できている体制です。この体制をもとに飲食店様向けと個人のお客様向けのビジネスをどちらも展開していました。

しかし、飲食店の多くが営業自粛や時短営業をする事態になり、飲食店様向けの売上は落ち込みました。そこで新しい取り組みを個人のお客様向けに行うことを決断。従来の酒類や食品に加えてペット用品や介護用品なども幅広く取り扱い始め、酒類関連の商品だけに限らない品揃えになりました。今では既存の物流網を使って、新たなお客様のニーズに応えることができています。売上の落ち込みそのものは手痛い経験だったかもしれませんが、改めて自社物流網の強みに気がつけたことは大きな学びだと考えています。

また、自社物流というお客様の「冷蔵庫の横まで」届けられる体制の大きなメリットを再確認しました。対面でのコミュニケーションが減ったリモート時代において、従来よりお客様に直接商品をお渡ししている当社の配達員の信頼性がいかに特異だったかわかりました。正月にお届けをすれば、お年玉をもらう社員もいるという話を聞いたことがあります。こういったビジネス以上の信頼を寄せていただけるということの価値に改めて気づかされました。

社員の目線を合わせて
会社をよりよく

自社物流網をはじめとする強みを活用して、実際の現場でビジネスを行うのはカクヤスの社員です。その社員をリードするうえで意識されていることはありますか。

社員に指示を出す時には、『目線を合わせること』を心がけています。まず、経営者と社員の目線にはギャップがあります。また、部長と店長でも意見が食い違ってしまうこともあるでしょう。なぜなら経営者であれば会社全体の、部長であれば部の、店長であれば店舗のメリットを優先して物事を考えるから。そのまま異なる立場から出た意見を戦わせるだけでは、争いを生むばかりかもしれません。それでもみな会社をよくしたいと思っていることは共通しています。このように意見が違う人たちをまとめる方法が、一つあると考えています。それは『目線を合わせること』です。目線を合わせて自分と同じ視点で考えてもらうと、目指すべき目標、とるべき手段を自ずと理解してもらいやすい。結果として、それぞれ主体的に取り組もうという意欲が湧いてきます。これが会社全体で一丸となるために必要な考え方だと感じています。

他にも、社員個人と接する時に心がけていることはありますか。

社員に対しては、ポジティブな期待を持つようにしています。こう考えるようになったのには、とある社員の行動がきっかけでした。ずいぶん昔のことになりますが、中途採用で入社予定の社員について前職での評判を聞いたんです。彼を知る人は口をそろえて「不真面目な性格だ」と答えました。それを聞いて私は採用したことを後悔しはじめました。しかし、実際に入社してからは、他の社員よりもずっと朝早く出社して人一倍働いているのです。前職の頃からは見違えるほど熱心に働くようになったようでした。その後10年ほど経った時に、「どうしてあんなに働くことに前向きになったのか」と聞いてみました。すると「変わるタイミングを探していた」という回答が返ってきました。転職をきっかけに自分のできることを探してみたいと思っていたそうです。その時に感じたのは、容易に「あの人はダメだ」と決めつけてはいけないということでした。人が変わるチャンスはいつでも訪れるものであり、現在やる気があるかどうかが重要だと感じています。

小さい成功の積み重ねで継続する成長

今後も新しいカクヤスを展開するうえで、どのような考え方で取り組まれていくのでしょうか。

小さい成功でも積み上げていくことを目指すべきだと考えています。私たちが挑むマーケットは競争率が高いため、「これは絶対に大きく売れる!」というものを見つけることの難しさはよく理解しています。代わりに、1000人に1人でもいいねと思ってくれるものを提供していくことを、そしてそれを継続していくことが企業の成長の源泉になっていくと思います。そのため社員に対しても、思いついた施策は実行するよう促すことを心がけています。特に将来入社される若い世代の方は、私が思いもつかないアイデアを出してくれると期待しています。「お届け」を基盤にして、あとはなにができるんだろうと一緒に考えていってほしいです。

代表取締役社長

佐藤順一

1959年、東京都生まれ。93年にカクヤス本店(現 カクヤス)3代目社長に就任。

社長就任以来続けている習慣は毎朝6時には出勤し、誰もいないオフィスで仕事を始めること。重大な判断こそ午前中の日が昇っていく時間帯に行うことも心がけている。食べ物は好きなものが多いが、パクチーは少々苦手。大学時代にウェイトリフティングをやっており、今でも2週間に1回ほどのペースで筋トレは続けている。